「ねぇ、ゆかりぃ」
「はい?」
「なんかおもしろいことなーいー?」
「おもしろいこと、ですか?」
放課後、人もまばらになった教室で、朝日奈夕子は、親友の古式ゆかりと、なんかまったりとした時間を過ごしていた。
「おもしろいこと………」
編み物をしていた手を止め、考え込む古式。
目の前で朝日奈が、椅子に逆向きに座りながら、古式の次の言葉を待っている。
「えぇと……」
こののんびりした口調がまったりしちゃってる原因かもしれないと、そう朝日奈が思っていると……。
「この本など、なかなかおもしろいですが?」
「そーゆーのじゃなくってー」
脱力しながら、朝日奈。
「では、どのような?」
「あー、なんてゆっかぁ……」
「ヒナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
づとむ。
「ぐあ……」
いきなりの衝撃。そして、肺から空気が無くなっていく感覚。
「ヒナ! これ見て! これ!」
「そ……の……ま……え……に……」
残った空気を搾り出す。
「そのヒザをどけろぉぉぉぉっ!」
力を振り絞り、自分の背中にヒザ蹴りを入れた不届き者をふっとばす。
「真帆! あたしを殺す気かっ!」
「ごめんごめん、ついうっかり」
真帆と呼ばれた女生徒が、軽く謝る。
ついうっかり飛び膝蹴りをかます女、白雪真帆、一部では朝日奈コピーと言われている彼女は、高校入学とともに、当たり前のようにと言うかなんというか、朝日奈夕子と意気投合し、一緒に遊ぶようになった。
そして、同時期に朝日奈が知り合った古式ゆかりとも仲良くなり、ここに仲良し三人組が誕生したのである。
「まったく……、で、なに?」
「これこれ」
「ん? メモリアルスポットの最新号じゃん! もう出てたの?」
「今日発売だよ。さっき買ってきたの」
「わざわざ戻ってくるってことは、なんかいい情報があったの?」
「ここ」
「ん?」
真帆が開いたページには、新規オープンのゲーセンが載っていた。
「オープン記念で、最新ゲームもオール百円で3クレジットだって。しかも、DDRの新しいヤツも入ってるらしいよ。……行く?」
「もち。行くよ、ゆかり!」
「はい」
そして三人は、情報誌片手に、その新しいゲーセンへと向かうことにした。
「と、そのまえに」
校門を出たところで立ち止まり、後ろをついてきていた二人に振り返る。
「はい?」
「どったの? ヒナ」
「ちょっと家に戻っていい?」
「はぁ?」
「いや、実は……」
と、スカートのポケットから財布を取り出し、口を開けて逆さに振る。
……………………。
……なにも落ちない。
「と、ゆーわけで、残金ゼロ」
「しゃーないなー」
呆れた様子で真帆が言う。
じゃ、ついでだから、着替えてくれば? スカートじゃ踊りにくいし。
「あ、そっか、……うん、着替えてくる」
「じゃあ、私たちも」
「そうね。……じゃ、えーと」
と、真帆が自分の腕時計をチラッと見る。
「5時に駅前で」
「了解」
「わかりました」
そして――
「ここね」
メモリアルスポットに載っている地図を見ながら、真帆が立ち止まった。
目の前には、真新しいビルが建っている。
「大きなゲームセンターですねぇ」
「7階建てらしいよ。まあ、上のほうは昔のやつとかメダルゲームとかだから、あたしたちにはあんまり関係ないけどね」
「真帆ー、ゆかりぃ、早くは入ろうよぉ」
「はいはい、もうヒナってばせっかちさんなんだから」
真帆は苦笑しながら、入り口で二人を手招きしている朝日奈の所へと歩いて行った。
「うわー、ワンフロア全部音ゲーなんだー」
ゲーセンに入ると、1階すべてが音ゲーの筐体で埋め尽くされていた。
「うーん、腕が鳴るわ」
両替しつつ、不敵に笑う朝日奈。
「ヒナ、何やる? ビーマニ? ギタフリ?」
「わかってるくせにぃ。なんのために着替えて来たと思ってるのよ」
「はいはい、DDRね」
「あ、じゃあ私はギターフリークスをやっておりますので」
「うん、わかった」
「……って、ヒナ」
「なに」
ギタフリの筐体へと歩いて行く古式を見ながら、真帆が朝日奈に問いかける。
「ゆかりって、音ゲーやるんだ……」
「ギタフリだけね」
「だけ? なんで?」
「なんでも、三味線に通じるものがあるとかないとか」
「……三味線?」
「うん、しかも、異様に上手いし」
「………マジ?」
そんなこんなでダンスダンスレボリューションである。
「じゃ、いきますか」
「ハイよっ」
と、いつものように、朝日奈と真帆が二人で踊ると、やはりいつものように人垣が出来る。
たとえ新しくオープンしたゲーセンであろうとも、来ている客層はほとんど同じきらめき市の人間なわけで、ましてやそこで、夏の大会でデュオで優勝を狙おうという二人が踊っているわけだから無理もないのだが。
「ほい、フィニッシュ」
「よ、っと」
踊り終えるとともに、どこからともなく拍手が起こり、二人は気恥ずかしそうに筐体から降りる。
「ふう、今日も絶好調だったね、真帆」
「そうねー」
と、二人が一息ついている時――
「白雪さん!」
「はい?」
不意に名前を呼ばれ、真帆が振り向く。
そこには、制服姿の小柄な男の子が立っていた。
その制服には見覚えがある。
「ひびきのの子?」
隣町のひびきの高校の制服を着ているということは、幼く見えるこの男の子は、少なくとも自分と同い年か、ひょっとすると年上なのかなと、そんなことを考えていると……。
「びっくりしたよ、白雪さんが、DDR得意だったなんて」
「え? えと……」
「誰? 知ってる子?」
「ええと……」
「あ、ひどいなぁ、確かに学校じゃクラスも違うし、あんまり話さないけどさ……」
「学校? キミ、ひびきのでしょ?」
朝日奈がその男の子に訊く。
「え? うん、そうだけど……」
「じゃあキミ勘違いしてるよ、この子は真……むぐ」
「勘違い?」
「いいええ!」
真帆が朝日奈の口を押さえ、慌てた様子で取り繕う。
「勘違いしてるのは彼女の方なの……ですよ」
「はあ」
きょとんとした様子の男の子。
「え、ええと、意外だった……ですか? 私がDDRをやるって」
「え? うん、まあ、ね」
はっきり言うのも失礼だと思ったのか、曖昧に答える。
「そう……ですよね。だから……」
と、一拍置いて――
「恥ずかしいから、あんまり他の人に話さないで下さいね」
「え? あ、うん、白雪さんがそう言うんなら」
「ありがとう……ございます。じゃあ、私たちはこれで」
「あ、うん、じゃあまた学校で!」
「さようなら」
にこやかに手を振る男の子と分かれ、朝日奈と真帆はその場を離れた。
「ふひぃ〜……」
2階へと続く階段のあたりまで来たところで、緊張の糸が切れたのか、真帆はその場にへたり込んでしまった。
「真帆、さっきの子って……」
「うん、美帆と間違えてた」
「やっぱり……」
「でも……」
と、真帆が立ちあがる。
「なんとかごまかせた……と思う」
「ひびきのの子たちって、誰も知らないんだっけ? 双子だって」
「うん」
「そっか……」
「たまに入れ替わってるってことを知ってるのも、うちのクラスのみんなだけだし……、まあなんにせよ、今ひびきのの子にバレるのは、ちょっとヤバいかなって思ってね」
「例のカレのこと?」
「うん、まあね」
ちょっと顔を赤らめつつ言う真帆。
「おーおー、青春だねー」
冷やかす朝日奈に、真帆はちょっとムッとしたようだったが、すぐに意地悪っぽい顔つきに変わり――
「そういうヒナこそどうなのよ? 気になってるんでしょ? 高見くんのこと」
「へ? な、なんで私があんな超ダサ人間のことを……」
「あからさまに動揺してるし」
「あらあら、青春ですねぇ」
ギタフリを終えて、二人のところにやって来た古式が、その会話を聞いていたらしく、そんなことを言いながらにこやかに微笑んでいた。
あとがき
高見くんとは、前作『ときめきメモリアル』のCDドラマに出てきた主人公の名前です、念のため>挨拶
えと、久しぶりに朝日奈さんを書きました、楽しかったです。
元々はですね、最初の、ゲーセンに行こうって話をしてるあたりまでは半年以上前にすでに書いてたんですね、で、そこで止まってたんですが、最近、『ときめきメモリアル2 Substories
Dancing Summer Vacation』(以下DSV)なるゲームを買いまして……、ええ、そこに出てきたんですよ、朝日奈さんが。しかもゲーセンがらみで。
というわけで、当初高2の秋頃だった設定を高1に変え、DSVの真帆の、「あのときのひびきのの子か〜!」っていうセリフを元に続きを書き上げました。
つまり、厳密に言うと、これはDSVのSSってことになります。
ていうか、なまじDSVとリンクさせようとしたぶん、かなり制約だらけになってしまいました。例えば、真帆に、出会った男の子が『坂城匠』だって知られちゃいけない、とかね。
あと怖いのが、矛盾ですか。1年若くしたのと、DSVに絡ませたので、どこかにつじつまの合わない部分があるかもしれません。ちうわけで、見つけたら教えてください。こっそり直しますんで(笑)
あ、そうそう、もう1つ、これを書くに当たって注意していたことがあります。それは……
話のどこかで、朝日奈に「超ダサ(ちょダサ)」って言わせよう、と(笑)。
さてそんな感じで、『MISSING』以来のときメモのSSですが、いかがでしたでしょうか?
1と2とDSVをある程度(下手すると深く)知っていないと分からないという困ったちゃんなSSですが、楽しんでいただけたら何よりです。
ではでは〜♪